僕の代わりにホーチミンの部屋の引越しをして欲しいんです。
しんちゃお。
とうとうグアバがまずい季節になってしまったベトナムからくろまめです。
ぼ??僕の代わり?引越し?
ちょっと意味わかんない。
タイトルだけ見てそう思ったひと、いるでしょう。
そうよ、くろまめだって「引越ししてきて欲しい」って頼まれたとき、
「ふぁっ?引越ししてくるってなんのこと?」って思ったもんね。
要するにこういうことだった。
自分は日本に帰国していて国際線がいつ飛ぶかもわからない。
ホーチミンに戻れるかどうかもわからない。
日頃から勝手に合鍵を使ってオーナーが部屋に出入りしているし、帰宅したら家にエアコン工事業者がいたこともある。
そんな部屋にはこれ以上家賃を払いたくないが、次の家賃を支払済みの保証金から充当するのは嫌だとも言われた。
(え、なにそのオーナー…。通常は家賃の2か月分を保証金として納めているよね。)
よってホーチミンの住まいを解約したいけど、仕事に関わる大事な荷物も多少残っている。
そしてバイクも1台駐車場に残っている。
だから部屋を解約できる状態にして欲しい。
希望は荷物とバイクを引き上げること。
はぁ?
うそーーん。(困)
いや~本人いなくて代理人の引越しなんて無理でしょ?
契約者でもないのに。
しかも言葉も通じない。
鍵も持ってないのにいったいどうやって部屋に入るの。
セキュリティがちがちでしょ。
警備員いるでしょ。
あんな立派なアパートメント(マンション)の警備がゆるいわけがないし、
くろまめがその大役を果たせる気もしないよ。
くろまめ以外は誰もホーチミンに残っていないという事実。
いやー無理無理の無理。
え?ホーチミンに頼るべきひとがこのくろまめしかいない?
まさか…そんな。
たしかに外国人はこのコロナ騒ぎでおおかたがお国に引き上げてしまってる。
そんなぁ。
この頼みから逃れることはできないの?
こんな究極の環境で誰か断れるひとがいるならば教えて欲しい。
何度も考えたよ。
くろまめは勇気を探し出して、また一旦しまって、また腹の底から絞り出して捩じって、嫌々しぶしぶ「わかったやるよ」って答えた。
この後の展開がなんとなく予想はついたけど、どうしても断れなった。
オーストラリア人のスティーブもチリ人のフィリップも帰国してたし、まさか我が家のエージェントに頼むわけにもいかない。
フィリップなんて連れて行ったら大変だな。1日中、英語で質問攻めにあって死んじまう。
結果、えらい目にあって数日寝込んだ。
友達に話したら「何それ?ありえへん!」って爆笑してた。
「よくもまあそんなことしたよね?」
「無鉄砲」って怒られもしたし「人が良すぎる」ってあきれられたりした。
でも、「大変だったでしょう」っていう友達だって実のところ状況は分からないと思う。
どんなに詳しく話したってその場のリアルはわかってもらえない。
だって友人たちは日本にいて、こんな突拍子もないようなことが想像できるはずがない。
くろまめはなぜか身体が痛くてオホホとしか笑えなかった。
最初の切り口は「ホーチミンに置いてきたバイクを使いますか?」
まもなく6月になろうかと月末も押し迫った5月のある日、そのころ日本でフリーのドライバーだったオットから珍しくポロリン♪とLINEが届いた。
オットは普段は連絡まめ夫くん。
日本に帰ってからは早朝から深夜まで時間に追われて働いてるので、毎日遅い時間に
「おやすみメッセージ」が1通届くだけ。
それが突然
「まめちゃんバイク乗りたい?」
って聞いてきた。
随分と唐突な話だ。
「駐輪場にあるオイラのバイクをまめちゃんは乗れないもんね?
T本さんのスクーター借りたい?」
ちなみにオットのバイクはロータリー4段変速でカブと同じ。
カブを操作したことのないくろまめはホーチミンでは絶対に乗りたくない。
「いや借りたくないよ、別に。」
暑い中、道を知らないホーチミンの大渋滞の道路をバイクで彷徨いたくはない。
だいたい男が饒舌になるときってのはなんか怪しい。
「バイクを放置したままだから、乗っておいて欲しいんだってさ。T本さんがそう言ってきたよ。」
なんだろ。
ありがたさ10%、嫌な予感90%のこの申し出。
何かよからぬオマケがついているとしか思えない。
偶然の出会いから、白羽の矢を立てられる。
T本さんと言うのはオットの同僚だ。
ベトナムに来る前に会ったことはない。
コロナの前、オットとバイクで走ってるときに(2ケツ)偶然にも道路上で出くわした。
いま振り返ってみると彼は運が良い。
もしもあの時、偶然会うことがなかったとしたら、彼は私に引越しを頼んだだろうか。
一度も会ったことのない同僚の妻に見ず知らずの部屋に行き、荷物を運んでくることを頼めただろうか。
彼は奇妙なほど目立つ色のスクーターに乗っていて、くろまめ初対面の儀式が謎にバイクの後部座席だった。
降りて5分ほど挨拶を交わした。
その時バイクを降りたくろまめはパーカーのフードの上にヘルメットをかぶるというスタンダードベトナミーズスタイル。
灼熱の中でヘルメットを脱いだくろまめの頭と顔からは汗が吹き出ていたし、完全に短足三頭身ルックだった。
おそらく彼は
(さすがベトナムに帯同してくるだけの勇者!なかなか奇妙な嫁よ)と思ったことだろう。
想像に難くない。
しかし後々に彼が引越しを決意したは背景に
「あの嫁、くろまめは勇者だからなんとかイケるかな」というのがあったのではないかな。
どう考えてもこのミッションは軟弱ものには務まらない。
まずホーチミンでバイクを運転するということがどういうことか。
日本で実際にバイクの運転経験があって、しかもベトナムの運転免許証を持っていて、ホーチミンに取り残されてる嫁に行きあたるなんて、滅多にないことだろう。
やっぱり彼は相当に運が良い。
事前の情報。
最初は単に「ホーチミンでバイクが無ければ相当不便だね、良ければ使えるよ」って話から展開していったんだろう。
そのT本さんについてくろまめが知っていることと言えば
①単身赴任でうちからは10キロ以上離れた場所のワンルームマンションに住んでいる。
オットとくろまめが今の家に住む前に一時的に住んでた部屋から近い場所にあったので、何度か建物の前を通りかかったことがある。
②住まいはセキュリティの厳しい警備員常駐の大型マンションである。
③そのマンションが我が家と同じ警備スタイルであれば
地下駐輪場からバイクを出すには警備員が常駐するブースに在住者カードをかざしてパスしなければゲートは開けてもらえない。
④玄関ドアはカードキーかまたは指紋認証か暗証番号タイプである。
⑤聞かずしても部屋の鍵(カードキー)は本人が持ったまま日本に滞在中。
もちろん、くろまめの手元にはあるはずもない。
事前にEMSなどを利用してカードキーをくろまめに発送しておくなどの判断はつかなったのであろうと推察する。
⑥部屋にある予備のカードキーには駐輪場の情報はおそらく入っていない。情報は通常バイクの持ち主のマスターカードキーにのみ登録できる。
断りたい。断れない。
くろまめはベトナムのライセンスは持っている。
でも実際にホーチミンでバイクを運転したことは1度もない。
なにこれ。
奥さんどう思います、この状況?
奥さんだってすごい嫌な予感するでしょ?ね?
思わず身震いしたよね?
90%どころかヤバ味100%振り切ってるわ。
この状況でくろまめが荷物を取りに行ったところで、どんな苦難が待ち受けてるか想像がつく。
でも他に誰もやる人がいないとしたら?
彼は国際線が再開してベトナムに戻って来られるまで、延々と住んでもないアパートの家賃を払い続けなければならない。
家賃がいかほどかは知らないが、建物の感じからして安くはないだろう。
断っちゃう?
いや断れねぇっしょ。
断りたい。
どう考えても断れねぇ。
本気で断りたい。
オットが着任当初からさんざんお世話になっとるわ。
そしてそのあとも訓練やらチェックやらで情報を共に分かち合った仲間?
困っていると言われれば助ける道しか選択肢はない。
たとえどんな苦難が待ち受けていようとも。
でも、公安こわい。
ここは涙を飲んでくろまめがその恩を返す時なんだ。(泣)
「わかったやる」と返事をした途端、オットとはそれきり連絡が取れなくなった。
LINEつないで二人でやり取りしてくださいねって。
ああ、無情。
しかし、やらねばならぬ務めなら、冷静になってしっかりとシュミレーションしてみようか。
まず解決するべき問題がいくつかあるよ。
それをT本さん本人にLINEで質問をぶつけてみた。
くろまめの質問とそれに対する答えはこちら。
- どうやって建物ロビーにはいる?
→エントランス前に常駐している警備員に「わたしは7階の住人の友人だから開けてください」と言う。
→大丈夫!すぐに開けてくれてロビーに入れます。あとはスムーズです。 - ロビーに入った後にエレベーターに乗って7階に行くにはカードキーが必要ですよね?
→大丈夫。受付嬢に友人の部屋に行きたいと言えばカードをタッチしてくれる。 - 部屋に行けたとしてカードキーが無いのにドアの開錠ができる?
→大丈夫。暗証番号を当日LINEで知らせます。部屋に入ったら予備のカードキーを置いてあるのでそれで万事うまくいきます。 - 部屋から運ぶ荷物の量はどのくらい?運び出すバッグや段ボールなどはある?
→大丈夫。大きいスーツケースと小さいスーツケース各1個を部屋に置いてあります。
すべてその中に入れてくろまめさんちに運んでください。 - バイクはエンジンかかる状態ですか?
→大丈夫。もちろんかかるはずです。キーは部屋のデスクの引き出しに2個入っています。ヘルメットも部屋にあります。 - バイクは特徴のあるものでしたよね。くろまめが運転して出ようとして出してもらえない可能性があるのでは?
→大丈夫。未納の水道代と駐輪代を支払ってもらえたら出せます。
ん???いまなんて言った???
未納の???
支払い??
なんかミッションひとつ増えとるがな。
おーい。
他にも問題出た。
えーっと、ここまでの6項目で素直に受け入れられるのはせいぜい3の
暗証番号がわかるってことだけなんだけども。
そこにたどり着く前に大きな二つの関所があるし、しかも未納の料金払うって今初めて聞いた。。。
あと、全部の質問に「大丈夫」って答えてるところにぜんぜん大丈夫さを感じない。
「えーっとこれってすごいリスク高くないですか?不審者と思われて公安警察を呼ばれちゃうとかありません?」
T本(すでに呼び捨て!)ww
「大丈夫ですよ。心配性ですか?」
なぬ?そうじゃねぇ!
ここは日本じゃねぇ!ベトナムなんだ!
英語が話せるベトナム人は少ない。(くろまめも)
警備員とのやり取りでことが起きたら、くろまめあっという間に不審者だよ。
えらいこと引き受けたった。
こりゃ大変だ。
なんか変な汗があふれ出てくる。
しかも本人のノリがなんとも軽い。
くろまめの頭の中では警告音が鳴り続けた。
公安警察に連行される夢をみる。
それから2日間、くろまめの眠りは浅かった。
ずっと警告音が鳴っている。
最悪、公安に捕まったら犯人引き渡し条約とかで日本に帰れるんだろうか。
その場合、飛行機代はどうなるの?
コロナ禍の中、近所の通報で、わけもなく2週間の自宅隔離になって、結局引越しを余儀なくされた日本人がいたな。。。
くろまめもあの部屋のオーナーに訴えられて留置されちゃうのかな。
緑色の公安警察の制服が寝ても覚めても頭にチラついてどうしようも無かった。
オットにLINEしたけど返事はない。
くろまめ覚悟を決める。
でも、ほら、そこはくろまめでしょ。
陰キャラなのに最後は楽天家。
もう決めてしまったものはしょうがない。
代わりはいない。
もうやるしかないんでしょ。
他に頼める人も居なければ、同行してもらえる友人すらいない。
覚悟を決めて翌日、本人にLINEした。
「明日晴れていたら決行します。
通勤ラッシュを避けて9時ごろに家を出ます。
そこからはいつでも連絡が付くようにしておいてください。」
スナイパーか。
依頼されたミッションを遂行すべく皮スーツに身を包み…
ポロリン♪♪♪
返事きた。
「ラジャー♪」
軽っ。
……。
その返信を見て不安が一層増すことになった。
見なきゃよかった。
やっぱり公安警察怖いよね。
未知の怖さだよ。
外国で犯罪者として捕まりたくはない。
とうとう決行日がやってきた。
本人の希望でバイクを移動する日と荷物を運ぶ日と前後2日に分けて決行することになった。
長期戦だ。
そもそも1日で両方の仕事をやり遂げるだけの体力はない。
当日朝、緊張で目覚める。
窓の外を見る。
車もバイクも渋滞してる。
雨は降ってない。
あの辺は食べ物屋さんが少ないから、朝ごはんは少しだけおなかに入れていこう。
安くて美味しいステーキ屋さん(食堂)が近くにあったはずだけど、そんな余裕はあるわけないか。
それまでは社会隔離でまったく外に出ていなかったし、そのあとも勝手に自己隔離してたくろまめ。
家にあるもの以外のものを食べてみたいけど、道がまったく分からないし、バイクで行ける気もしない。
でも…もしもこの仕事を無事にやり遂げたなら、迷っても絶対にあの390円ステーキを食べに行ってやる。
ちょうど9時。
家の玄関前から配車されたGrab Taxiに乗り込む。
シートの傍らには荷物が多かった時のために用意した予備の巨大エコバック。
水のボトルが2本。
自前のヘルメットとバイク用のエアリズムパーカー、綿グローブと排気ガス対策の布マスク。
プラスドライバー1本とバックミラー調整用のレンチ1本。
完璧じゃないか。
でも
これ並べてみたら…覆面泥棒セットに見えなくもない。
捕まったら完全にアウトな装備。ww
9時をまわっていても道路はいつも通り混んでいた。
車の横を冷蔵庫を積んだバイクが通る。
みんな少しずつジリジリと前に詰める。
ベトナムは車間距離なし。
1センチでも前に行こうと隙間なく並ぶ。
新生児を抱っこして乗ってる人いる。
くろまめはこの景色を眺めるのが好きだ。
もう日本にはない混沌。
たくましい人たち。
昔は日本もこうだったのだろう。
到着5分くらい前にT本さんにLINE
「あと5分ほどで到着します。」
「了解!待機します!」
謎のミッションインポッシブル。
くろまめ、今なうオット以外の男性と重要なミッションに挑もうとしてる!
いざー!!!
マンション到着、いざ決行!!!
Grab Taxiがロビー前のエントランスに到着。
車の中では険しい工作員の顔つきだったくろまめも降りるときには警備員のおじさんに向けてとびきりの笑顔を作る。スマイリーくろまめ。
目を見ながら近づいて行って
おじさんに
「しんちゃお!」新入生なみの元気な挨拶をする。
おじ「しんちゃお!(スマイル)」
まめ「(いい感じ)えくすきゅーずみー!
7階の友人のところに行きたいんだけど開けてくれる?(英語)」
おじ「オーケイ。(英語)自分でこのインターフォンに部屋番号押して。(おじさん英語できる!?)
応答したらフレンドに開けてもらって。
はい、次の人…」
まめ「え……………。」
やば。
フレンドいないがな。
部屋に誰かいたらそれはそれで恐ろしいわ。
出だしでいきなりつまづいとるがな~。
どうすんのコレ?
なんとか
おじさんをケムに巻いて入れないかな。
こんな感じで。
くろまめ、のっけからピンチ?
うまくいく気がしねぇ。
どうする。どうする。
次回に続く→
くろまめ、これいったい何話まで続くのさ、と思ったらポチっとね。
↓こちら正統な東南アジア情報がいっぱい。
↓コレ一番後ろがくろまめじゃない?と思ったらポッチリね。